雑記

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二次元アイドルキャラクターと声優、アイドルとスターについて

 うたプリ論を寄稿させていただいたシノハラユウキさんの二次元アイドル音楽本『MIW-MUSIC OF IDOL WORLD-』発売(C91 東U12b)記念

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QUARTET NIGHTのオリコンビルボード1位など諸々の達成記念です。

 

 MIWに提出したものの没案というかカットした部分だし今急ピッチで書いたものですが。

 

 

 

 

「アイドルとは、それを取り巻く文脈――アイドル自身の人間的魅力や、アイドルがその上で歌う音楽トラックなど――からの期待と、自身の実力の間の落差に巻き込まれてしまった存在である。その落差においてアイドルの身体性が現れるのであり、その身体を救済せんとファンは応援によって参入する。」「スターは、その芸能的実力の卓越性によってスターたりうる。スターもまた、人間的魅力を持ち、完成度の高い文脈を伴って活動するのだが、スターは実力においてそうした期待を上回ってしまう存在である。」(新野安「アイドル、スター、そして都市 『サクラ大戦』から見える風景」『ユリイカ2016年9月臨時増刊号 総特集=アイドルアニメ』p.236より)

 

 一般的な(特に女性)二次元アイドル作品は若手声優を起用し、キャラクターに追いつこうとする声優の努力と物語内でのキャラクターの努力を重ねることでファンの応援を促すとよく言う。つまり冒頭のスターとアイドルの関係を鵜呑みにするのならば、これをそのまま二次元アイドルキャラクターとその声優の関係に置き換えることができる。人間的魅力=キャラクターに追いつこうとする実力=声優という構図だ。

 

 『うたの☆プリンスさまっ♪』において、ST☆RISH(以下、スタリ)の面々は倍率200倍の早乙女学園に入学し、首席卒業(ゲーム版)したという経歴を持っていたり、QUARTET NIGHT(以下、カルナイ)にしても早乙女学園生でも数人しか入れないシャイニング事務所にスカウトされたという、むしろ「スター」に近い存在である。そのプリンス達のスター性を、声優のスキルを踏まえた曲作りが一体となり表現している。

 

 スタリの7人の声優は、2016年現在で33~44歳の元々有名で経験豊かな声優陣が揃っている。その持ってる実力を最大限活かすことで、キャラクターが元々持つスター性を担保する。例えば宮野真守の歌やダンスのテクニックは、「得意楽器は歌」と豪語し、幼少期から芸能活動をし、完璧主義者である一ノ瀬トキヤの設定に説得力を持たせている。そしてそのアイドル性は声優ライブである「マジLOVE LIVE」(以下、プリライ)における演出や、声優の特に「自分をどうプリンスのように魅せるか」という努力で補われ、大きいステージを活かして生き生きと動くところに人間的魅力を感じるのである。

 更に作品の看板として存在していることもあり、彼らの曲には過去のスタリ曲のフレーズやメロディが頻繁に取り入れられ、「文脈」としての濃度があまりにも高く設定されているのだ。パフォーマンス面でキャラクターと声優の実力差は大きくないため、プリライではどの曲でも高いパフォーマンスが披露され、コンテンツを抜きにしたライブとしても楽しめるように作られている。一方で、そのあまりにも高い文脈との間に「アイドルらしさ」が散見されているのではないか。

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 一方のカルナイは、先輩なのでそのスタリよりも高いスター性を持つ必要がある。しかし、声優の年齢は29~42歳とスタリよりも低く、むしろカミュの声帯を任されている前野智昭美風藍の回線を通して喋っている蒼井翔太のように、うたプリを通して有名になった声優もいるほどだ。だからといってカルナイがスター性で劣っているというわけでは決してない。カルナイもスタリと同様に声優が元々持つ実力(=スター性)や人間的魅力(=アイドル性)を意識して設定、演出がされている。カルナイはむしろ、更にプリンスに追いつこうとする努力と成長(=アイドル性)を含めることで、より高いステージへ向かおうとする「先輩らしさ=スター性」を逆説的に担保しているのだ。

 黒崎蘭丸役の鈴木達央がプリライ5thの当日にダンスの練習で骨折したことも記憶に新しいが、声優の専門外であるダンスに対してもカルナイはストイックに挑んでいる様子がステージでは容易に見て取れる。スタリにはこれほどダンスに対する姿勢は認められておらず、四ノ宮那月(時々砂月)役の谷山紀章があまり踊らないことをネタにされていじられるほどだ。ある種、スタリ声優が愛嬌=アイドル性でごまかしている部分を、カルナイ声優は実力=スター性で埋めようとしているのである。

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 ここにカルナイとスタリ、またその声優におけるスター性とアイドル性のバランス差が見て取れるだろう。そして「アイドル」と「スター」の対比とはそう単純なものではなく、二次元アイドルにおいてはキャラクターの持つ実力と魅力、加えてそれを演じる声優とキャラクターとの関係によってより深い表現として見ている人を魅了しているのではないだろうか。




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